コラム 2025.05


季節と共に移り変わるショートケーキ 文章:藤本美南

 サントアンは昨年から、6月〜11月頃までいちごのショートケーキを作ることをやめた。ショートケーキといえばいちご。誰もがそう思い浮かべるほど、いちごというイメージが定着している中でやめる決断。いちごじゃないショートケーキをお客様は受け入れてくれるのかな、本当に美味しいのかな。

 いちごの旬が終わりかける昨年5月中旬頃、私たちは不安と共に大きな一歩を踏み出した。サントアンの1番人気商品「苺のプランセス」(いちごのショートケーキ)。6号(直径18センチ)のスポンジを3枚にスライスし、1段目と2段目に生クリームといちごをこれでもかと敷き詰めて、生クリームで綺麗にナッペしたあと10等分に切る。仕上げにも生クリームを絞っていちごを1粒分。満足感がありながら気づけばぺろっと無くなっている。「プランセス」、その名のとおり華やかな見た目とその人気さから、ショーケースの1番上でひときわ輝きを放ってきた。


私たちが届けたいもの

 なぜ一番人気の商品をやめるのか。理由はひとつ。いちごが1番おいしい旬の時期に味わってほしいから。旬には、出始めの「走り」から最も味が良くて栄養価も高くなる「盛り」、そして最盛期が過ぎた終わりかけの「名残」と移り変わりがあり、それぞれに楽しみがある。

 これまでは、北海道や長野県から夏いちごを取り寄せていちごのショートケーキを出していた。しかし、自然の栽培期間を外れたものは酸味が強く、本来のいちごの美味しさには及ばない。こんな気持ちをもちながら胸を張ってお客様に出せるのか。私たちが届けたいものってなんだろう。サントアンで働くみんなで何度も話し合いを重ねた。

 現代では一年中どんなフルーツでも手に入る。だからこそ、季節ごとのフルーツ本来の美味しさを味わって欲しい。いちごの季節が来たなぁと感じてほしい。私たちは、お菓子を通して季節を感じて伝えていくことができる。遂にいちごをやめる決断をした。


いちごの後を引き継いだメロン

 まず始まったのが初夏の旬、メロンのショートケーキ。私はメロンのショートケーキでお客様からの忘れられない言葉がある。

「子どもの誕生日にケーキを買いに行った時『今は中がメロンです』と聞いて、いちごだと思ってたから残念で。子どもは納得してくれるかなぁ…ってドキドキしながら買って食べてみたんですけど、すごいおいしくてびっくりしました!子どももおいしい!って言ってくれて。サントアンでケーキを頼んで良かったです!」。

 ずっと心の中にあった不安が目に見えるようにぱっと無くなった気がした。何をそんなに不安に思っていたのか恥ずかしくなった。いちごに対する名残惜しさはあるけれど、夏が旬のフルーツは夏が1番おいしいんだから自信を持って作っていいんだって、そう思えた。

 お客様から、たくさんの声をいただいた。

「いちごのケーキは無いの?」「ちょっとくらい酸っぱくてもいいから、いちごのケーキが欲しいなぁ」。私にはありがたい言葉だった。こうして言ってもらえると、なぜいちごをやめたのかを、きちんと説明することができる。そして、私たちの想いに賛同してくれた方がまた足を運んでくださる。フルーツが変わっても、人気の座を譲らなかったショートケーキ。サントアンの旬へのこだわりはしっかりとお客様に伝わり、お客様がお客様を呼んでいるような実感もあった。


今年も旬のバトンを繋ぐ

 メロン、マンゴー、いちじく、マスカット、洋梨。いちご以外のフルーツを使ったショートケーキを出すこと約半年。旬のバトンを繋いできたショートケーキがショーケースの1番上に堂々と並んでいた。

 店内の装飾やディスプレイ、駐車場の草木花、そして季節と共に移り変わるショートケーキ。お客様にはこれからもサントアンと一緒に季節を感じていただきたい。


 今年はどんなフルーツを使おうかな。

 旬のフルーツが、次は自分の番だと待っている。



藤本美南(Minami Fujimoto)

サントアン/パティシエ 2003年生まれ。2023年入社。製造部生菓子担当。入社3年目ながら、その力量が評価され、リーダーを務める。どんなことも手を抜かず、素直に学ぶ姿は、サントアンのみんなから一目置かれる存在。