サントアンレポート 2023,10


シュトーレンのおはなし  文章:山下滉生


 シュトーレンはドイツの伝統菓子で、バターをたっぷり使った発酵生地に、洋酒に漬け込んだドライフルーツやナッツを練り込んだ贅沢な味わいが特徴のお菓子です。表面にたっぷりと粉糖がまぶされた真っ白な見た目は、おくるみに包まれたイエス・キリストをイメージしています。長細い形をしていることからシュトーレン=地下道・坑道という意味の名称になったと言われています。ドイツではクリスマスまでのアドベント(クリスマスの4週間前からキリスト降誕を待つ期間)に毎日スライスして、少しずつ食べられています。


 その歴史は長く、その名が公文書に最初に登場したのが1329年。当初は小麦と水と酵母を練って作るだけの質素な焼菓子でした。宗教上の決まり事として動物性の食べ物は禁止されていましたが、15世紀に入りドイツ・ザクセン州の選帝候(ローマ帝国の君主に対する選挙権を有した諸侯)により、バターを使用する許可をローマ教皇に求め、許可を取り付けたことがきっかけとなり現在のようにバターが使われるようになりました。


 サントアンのシュトーレンは材料を厳選して作っています。使用するドライフルーツは1晩洋酒で漬け込み、香りを引き立たせます。焼き上がった生地を溶かしたバターの中に何度もくぐらせて贅沢に使用することで長期保存が可能となり、粉糖でしっかりコーティングすることで香りを閉じ込めます。


 焼き上げて包装したのち、長野県北アルプス山麓にある通年10℃前後を保つ風穴で、約半年間ゆっくり熟成させます。年間を通して低温を保つこの環境のおかげで、熟成が進み、ドライフルーツやスパイスの香りをより深くまろやかにしてくれます。


 シュトーレンの食べ方は様々ですが、サントアンのシュトーレンをよりおいしく食べていただくには常温で保存し、薄くスライスして少しずつ食べてください。日が経つごとに、より味わい深くなります。端からではなく中央からスライスしてください。そうすることで切り口がぴったりと合い、空気に触れずに劣化を防ぐことができます。個人的なオススメは、チーズと赤ワインと共に楽しむことです。ぜひお試しください。


 私は、長年シュトーレンの生産に携わってきました。当初はシュトーレンの存在自体を知りませんでしたが、年数を重ねるごとにシュトーレンの歴史的背景を知り、知識が深まって、よりおいしくするために向上心を持ってつくれるようになりました。

 クリスマスまで残り4か月。おもいのこもったシュトーレンをお楽しみに。