熟成シュトーレン 〜長い眠りから覚めるとき〜
文章 山下滉生(サントアン パティシエ)
「ビリビリ、、、ガサッ、、」。袋を慎重に開ける。うーん。いい匂い。粉糖で覆われたシュトーレンからは、開封を待ってましたと言わんばかりの芳醇な香りがする。
厚さにして約1センチ。食べる分だけ切り分けながら、クリスマスまでの期間を楽しむ。切った後の保存には注意が必要だ。なるべく空気に触れないようラップでくるみ、常温で保管する。丁寧に扱うほどシュトーレンはそれに応え、さらにおいしくなってくれる。
シュトーレンとは、ドイツ発祥の伝統菓子。パン生地にドライフルーツやナッツを練り込み焼き上げたもので、長期保存が可能なように粉糖で覆われている。白く細長い見た目から、おくるみに包まれたキリストをイメージしているとも言われている。
私は入社初年度から約10年間シュトーレンの製造に携わっている。
シュ、シュトーレン?入社当時の私は、シュトーレンの存在すら知らなかった。ある日、先輩がシュトーレンをつくる姿を見て、教わるチャンスをもらった。発酵など、たくさんの工程があり、いつもの仕事とはまた違う異質の仕事。暗闇の中に突っ込むような怖い感覚はあったが、チャレンジしたい!と思いやってみた。
ドライフルーツを洋酒で漬け込み、発酵生地をつくり、フルーツと混ぜ合わせ、生地を休ませて分割して成形。窯で1時間ちょっと焼き、バターの海にドボンッ。粉糖をまぶし寝かせて包装。
1つのお菓子にこんなにも時間がかかるんだ。とてつもない労力に、自分にできるか不安で、しかたなかった。細かいポイントやアドバイスをいっぱい聞きたかったが、先輩からはたったひとこと。「混ぜて焼くだけ」。それだけ?そのポイントにおいしさの秘訣があるんじゃないの?とても理解できなかった。
混ぜて焼くだけ。先輩が退職した後も、その言葉の意味を探しながら自分なりに工夫してつくった。何度も失敗し、どこを改善すればもっとおいしくなるか考えた。そうしてトライアンドエラーを繰り返しているうちに、安定していい状態の生地が焼けるようになった。
今なら分かる。確かに混ぜて焼くだけだ。
材料の特性を見分け、仕込みの温度帯や発酵、焼き具合を見極める。私はおいしいシュトーレンになるようお手伝いしてるだけなんだ。
先輩からは自分で考えることの大切さも教わったと感じた。時間はかかるが身についた時の自信は、失敗の経験からしか得られないからだ。
サントアンの歴史とともに受け継がれ、つくり手それぞれの色を魅せるシュトーレン。毎年、長野県の北アルプスの麓にある風穴に半年間寝かせる。年間を通して10℃前後に保たれた場所は、シュトーレンにとって最高の寝床。11月の販売までの期間、ゆっくり熟成しながらその時を待つ。購入された際には、「おはよう」そう言って迎えていただけるとありがたい。
山下滉生(Kousei Yamashita)
サントアン / 製造・焼菓子部門サブリーダー 1997年生まれ、2016年入社。どんな仕事も真正面から受け止めて最後までやり抜く芯の強さと、コツコツと積み重ねる姿が確かな力と熱意を感じさせる。まわりに信頼と良い刺激を与えている。

