私とプロフィットロール 文章:塚口紗希(10月31日生 or 代表取締役)
両親は街のケーキ屋さん。私が2歳の時に小さなお店を開いた。街にできた初めての洋菓子店には、毎日たくさんのお客様が買いに来てくれて、作っても作っても売れていく。営業を終えると翌日の営業までに商品を作って並べる、早朝から夜中まで休みなく働く両親を見て育った。
忙しいのは、子どもながらによく理解していた。わがままを言ってお母さんを困らせないよう、寂しいなんて言わずにおばあちゃんと兄弟で過ごした。何度、普通の家庭が良かったと思っただろうか。学校から帰ると家にお母さんがいて、夕飯に家族全員が揃い、土日に出かける家庭に生まれてみたかった。
毎日食べると身体に良くないと言って、ケーキ屋さんなのに誕生日とクリスマス以外にケーキを食べたことがなかった。「誕生日ケーキは何がいい?」初めて聞いてもらったかもしれない。何日も前から誕生日に向けて準備されているのを感じて嬉しかった。この時だけはわがままを言ってもいいだろう。憧れていたプロフィットロールを食べてみたい。
ザクザクのタルト生地にチョコレートをかけた小さなシュークリームがいくつも重なっている。シューの中身はカスタードクリームだけれど、一つだけ生クリームを詰めて「あたり」を作ろうと誰かが言いだして、あたりつきのプロフィットロールがその年のお誕生日ケーキになった。憧れのケーキにあたりをつけてもらって、とても誇らしい気持ちだった。ケーキ屋さんの娘でよかった。
楽しみにしていた誕生日の夜遅く、仕事を終えたお父さんとお母さんがケーキを持って帰ってきた。「コーヒーですか?紅茶ですか?」その夜はとりわけ嬉しくて、張り切ってみんなの飲み物の用意をした。「さきちゃんが淹れてくれるコーヒーはおいしいね」インスタントコーヒーなのにおばあちゃんが喜んでくれた。私も家族もみんな嬉しそうだった。
パジャマ姿の兄弟、みんなで歌う誕生日の歌、吹き消したろうそくの匂い。シュークリームをみんなで取り合って食べたら、主役がいなくなった丸裸のタルト生地が残った。かじったシュークリームをみんなで見せあって、あたりだ!と誰かが喜んだ。
誕生日が近づくとプロフィットロールを食べたくなる。家族が揃ってケーキを囲んだあの夜、ワクワクと過ごした気持ちがありありとよみがえる。
そして今、私は両親のケーキ屋さんを引き継いで、かつてのお父さんとお母さんの立場になった。両親は私にしてくれたように、この街のたくさんの家庭に温かく楽しい思い出を作り続けてきてくれたのだ。今の私ならわかる。人生にそう何度もない、幼い子どもとケーキを囲む一瞬の大切さを。今、私の胸の中にあるのは、あの日の誇らしい気持ちと同じ。ふたりが始めたケーキ屋さんの娘でよかった。

