二十数年分のほこりをかぶった本がびっしりと詰まった棚、日に何度も目に入るたびにうんざりとした気持ちで廊下を通る。この本棚は、一体、私に何を伝えようとしているのだろうか。
本棚と会社の相関関係
サントアンの建物は2階建で1階に店舗と厨房、2階は更衣室、休憩室、まかない食堂、資材室、会議室、事務室などがあり、それぞれの部屋をつなぐ18mの廊下には幅4.5m、高さ2mの壁と一体になっている本棚があります。江戸時代末期に活躍した農政家・思想家の二宮尊徳(昔の小学校によくあった、薪を背負った二宮金次郎像で有名)の父:利右衛門が読書好きの教養の深い人で約1500冊の本を収蔵していたといわれており、それってどんなもんやろか?と興味を持った創業者の父が作ったものです。26年前の現店舗建設時に造り付けられた本棚で、お菓子にまつわる本の他に歴史や文学、ビジネス、ノンフィクション、実用本など様々なジャンルが収められています。サントアンの頭の中のようなもので、誰でも読んだり借りたりできる図書コーナーです。
廊下を通るたびに感じる本棚への不快感をとことん見つめだすと、ある時からこの本棚と会社で起きていることが重なっているのではないかと考え始めました。学習欲求や好奇心の低さ。不便を感じながらも見て見ぬ振りをしている課題。古い情報や知識のまま抜け出せない慣習。そして何よりも、本を収蔵した創業者である父へ、私が持ち続けている遠慮。このいろいろが気づけとばかり毎日語りかけていたのかと、ようやく奥底の自分自身にたどり着いたのです。
いよいよ本の大断捨離
昨年の7月「本棚を片付けたいんだけど、なにせあの量だから、めっちゃ腰が重たいわ」食堂で一緒になったスタッフに相談したところ、「全員でやりましょ。みんなでやったら早いですよ!一人一区画ずつやったら、すぐ終わるじゃないですか」と言って、さささっと全員の名前を付箋に書き、本棚に貼り付けてくれました。役割が決められた途端に、ひとりひとりと2階に上がってきては、割り振られた区画の本を全部出し、ホコリを払ってジャンルごとに分け、棚を拭きあげ、また自分の仕事に戻っていく。なんとスムーズなんでしょう。冷房が効かない暑い廊下にもかかわらず、あっという間に掃除が終わりました。一人でやるのが大変だと感じる時は、みんなの力を借りて手伝ってもらっていい。人を頼ることができない自分を許せた瞬間でもありました。
1500冊の蔵書、取捨選択がとにかく難しかった。念の為に、父に大切なものはないか確認したところ「なーんにもない!ぜーんぶ捨ててよし」という返事、そうは言っても全部捨てるにはやっぱり気が引けます。一緒に選別を手伝ってくれたスタッフに「うっちゃんだったらどれを残す?」と尋ねたところ、『僕なら全部捨てます』これもまた大胆な返事です。本に依存することなく、真の知識や自信を身につけている2人が眩しくて眩しくて…目の前がチカチカしたのを覚えています。
合計766冊を古本買取のバリューブックスさん(取り組みがおもしろい古本買取屋さん、おすすめです)へ送り、そのうち352冊に値が付いて14,917円になりました。大量の本を整理したことで、私は知識不足だという自己否定感、本があれば安心という執着からやや解放されました(まだまだ積読はたくさんあります)。自分にとって何が大切で、何が不要なのかを明確にする良い機会でした。
5本の力を信じる
インターネットや電子書籍がある時代、紙の本が売れなくなったと言われているけれど、少なくとも私は本のおかげでいろんな局面を乗り越えて、楽しく自分自身を生きられるようになりました。知りたいことや知らないことを時代を超えて教えてもらったし、広い世界や多様な考えがあることも知ることができました。本がなかったら今の私はなかったでしょう。本は私の大切なパーツです。この大掃除をきっかけに、サントアンで働くみんなを助けるパーツになってくれることを願っています。サントアンで働く人がより良く生きることができれば、社会もより良くなると真剣に信じています。