ピュアなものづくり (サントアン 33周年記念対談 塚口肇×塚口紗希)


経済が優先され、どんどん食品添加物が使われていく今の食品業界のことを、嘆くように話してくれた塚口肇(はじめ)会長。でもその言葉のもっと奥にある温かいものを感じずにはおれませんでした。
 サントアンは2021年1月23日で創業33周年を迎えます。そして2020年12月に社長を交代し、新社長には娘の塚口紗希が就任しました。肇会長が創業から真面目に取り組み続けた〝原材料の国産化と無添加物”のお菓子作り。その想いを継いで、紗希社長のもと、サントアンは新たな道を進み始めています。

―サントアンは素材選びを大事にされていますが、どんな想いでやってこられたのですか?

(肇) たぶんね、こう見えて真面目なんやと思う。生き方が。「家族に食べさせたいものを作る」っていうのが一番の想いです。例えば自分のお母さんに「こんなお菓子あるねんよ」って食べさせるんやったら、裏切れないじゃないですか。そんな気持ちで、自分が知っている人にはいいものを食べてもらいたいし、ポストハーベスト農薬(※)とか添加物のこととか、知ってしまった以上は使えないんよね。結局は自分が納得したいからやってるんかなぁ。だから苺は創業当時から国産のみ、小麦粉や砂糖は途中から国産のものに切り換えてお菓子をつくってきました。あと、国産を使う理由はもう一つあって、個人でお金を使うことも材料の仕入れもそうやけど、お金を使うという行為は〝投票”やと思ってるんよ。自分が何を応援したいか。そう考えたときに、海外の知らない生産者ではなく私は日本の生産者さんを応援したい。真面目に質の高いものをつくろうとしている日本の生産者さんに投票したいんですよね。

―生産者さんへの想いが強く伝わってきます。

(肇) そんな風に思うのは、やっぱり育った環境が多分に影響してると思う。私の父が酪農と農業を営んでたんですけど、なんとなく生産者が仲買人に買い叩かれるというイメージを持っててそれを不本意に感じてたんかなぁ。応援したいという気持ちが強いですね。

―なるほど。無添加のお菓子作りというのもお店としては結構大変なことですよね?

(肇) まぁそうやね。でも…許されへんのよね。例えばコーヒーでも、缶コーヒーにするために乳化剤を入れたりする。油分が浮いてこないように乳化剤で混ぜ合わせるんよ。でも本来それは全く必要のないものやん。生クリームだって、本来は牛乳100%で作られるはずやけど、そうじゃない植物油脂や添加物を混ぜて作られたものがたくさんある。それってはっきり言ってコピー品というかニセモノやんか。経済が優先されて、食べ物の原価を下げたり、日持ちさせてロスを減らしたりするために添加物を加えるって、有り得ない発想やと思う。なんていうか、農産品への敬意を失ってるよね。社会は豊かにするべきものだろうけども、少し行き過ぎてるように感じる。なんか消費者を騙して金をとろうとしているように思えてしまうんよ。

 昔、手作りの味噌や自分たちでつくったお米のごはん、添加物の入ってないシンプルな材料でできたおかずを当たり前に食べてたんやけど、子どもの頃はそれを「肉が入ってないから貧乏臭いなぁ」とか思ってた。でも今思えば最高に贅沢な食事よね。めっちゃ恵まれてたと思う。そんな風に、素材を使ったピュアなものづくりがしたいんよね。

―シンプルだけど簡単ではないことを、ちゃんと今まで大事にされてきたんだなぁと思います。新社長の紗希さんとはそういった想いや考え方はどのように共有されてきたんですか?

(肇) 紗希は15年前サントアンで勤めてて、そのときに店長と過呼吸になるまで言い合ったりしてたんよ(笑)。一生懸命やってたんやけど、いろいろ大変なことが重なって「美麻に来たら?」って私が長野県の美麻に呼んだんです。そのときちょうど私も三田から離れて美麻でストローベイルハウスを建てててね。そこから5年間一緒に住みながら「美麻珈琲」っていう姉妹店をつくって一緒に働いたんよ。一緒に居て大変なこともあったけどなぁ。夜中に豪雨で…

(紗希) そう、なんか夜中の2時くらいに起こされて「行くぞ!」とか言われて。舗装されてない道があって、雨が降ったらそこがなだれるから水の通り道をつくりに駆り出されるんですよ。豪雨の中をカッパ着て…。変ですよね!?

―大変…(笑)。

(肇) そやけど、それくらい大事やったんよ、あの道は。まぁそんなこともあったよね。

(紗希) 一緒に居るとムカつくこともあるし大変なことも多かったけど、その5年間っていうのは、たぶん経営のエッセンスとか考え方とか、大事なものを全部抽出して学ばせてもらった時期だったなと思ってます。何が大事なのか、仕事って何かとか、誰のために自分の人生があるのかとか。それが結果的に今に繋がってるんですよ。とても基本的なことであって、働くには欠かせない考え方。

―5年経って肇さんが三田に帰ってから一人で美麻珈琲を任されてたんですか?

(紗希) そうです。その時期も大変でした。お店の認知度がゼロだったのが段々知ってもらえるようになって忙しくなり始めて。従業員さんとのトラブルもあったし、まぁ一通りの失敗はしました。

(肇) あの頃大変そうやったね。たぶん泣きながら仕事してたと思うけど。

(紗希) でも思うのは、親やったらどうしても先回りして、子どもに苦労させないようにって思うもんやと思うんですけど、敢えてその気持ちを抑えて「店1軒やってみろ」って言ってくれて。娘が大変な姿を見るのも辛かったと思うんですけど、大らかな気持ちで待ってくれて、成長する機会と場所と時間をつくってもらえたことが有難かったかなぁと。

(肇) 自分で気が付かないとわからへんしね。失敗はしたらいいと思うねん。それは従業員さんにも思ってること。自転車に乗ってる子どもがこけそうやからって助けても仕方ない。子どもにも成長してもらわんと困るから。いつまでも補助輪つけて走ってられへんしね。だからある程度の失敗は必要やし、失敗しても叱らないんです。

―いいですね。

(肇) まぁ美麻珈琲での13年間、いろんな経験してくれてよかったです。コーヒー豆の産地訪問にも行ったよな?

(紗希) そうそう。ミャンマーにね。行ってみて、やっぱり“一繋がり〟なんやなって思いました。どこまで行っても。
―“一繋がり”?

(紗希) 生産地を見てないとね、日本に運ばれてきたコーヒー豆をお金だけ払ってパッともらうから、あって当たり前のような錯覚に陥るんですよ。でもその裏には、いろんなことを考えながらつくってくれた人たちがいる。霜よけつくって苗育てて一個ずつ手で植えて。すごい急斜面のところを上がって収穫して、その後も大事に加工して日本に送ってくれる。必ずそこを誰かがやってくれてるから、こっちで焙煎するっていう仕事ができるんですよね。そういうのをやっぱり忘れるんですよ、自分の仕事だけやってたら。で、そういう人たちのことを感じれるようになったら、じゃあより良い製品作りをしている人のものを買いたいし、より地球に負担が少ない方法でやってる人のものを使いたいって思うようになる。より良くしていこうと思う人たちばっかりで繁栄していけたら、世界ってより平和なんじゃないかなって思います。サントアンはそういうことの始まりの会社になりたい。

―肇さんの〝投票”の話ともリンクしますよね。生産者と繋がるという点ではサンマルシェも重なる部分がある気がします。

(肇) そうやね。マルシェってお客さんとタメ口で喋れるやん?いや私だけかもしれへんけど(笑)。あんな感じが面白いよね。お客さんも対等な意識で我々のことを見て欲しいし、我々もそういう視点で仕事したいなと思うから。

(紗希) 私はまだマルシェには深く関わってないんですが、お店とは違った角度でサントアンの良さとか本当に目指したいこととかコミュニティづくりをやってくれてるんだなと思って見ています。これは続けなあかんなって思ってる。

(肇) サントアンの店があって、美麻珈琲があって、サンマルシェがあって、ビオターブルもあって、それを今よりもさらに強固に1本に繋げていくのが次の社長の仕事かなと思っています。

(紗希) あとはやっぱり食の安全とか原材料の大切さをもっとアピールしていきたいですね。今までは父が陰徳の世代やったから、敢えて自分の行いを言わずに積んでいくのが良いとされてきたと思うんですけど、私の役割としては、もっと知ってもらってお客様とか取引先さんに「あ、そんな風に考えてる会社やったらぜひ手伝いたい」とか「ぜひ買いたい」って思ってくれるような仲間をもっと増やしたいと思ってます。

―話を聞いていて、こちらもサントアンのお菓子に“投票”したい気持ちになりました。ありがとうございました。


※輸送中の品質の低下を防ぐため、収穫後の農産物に散布される殺虫剤・防カビ剤のこと。生育途中で撒かれる農薬よりも残留度が格段に高いと言われており危惧されている。