つくるひと 2024.02


つくる人

花を咲かせるように笑うひと

田中佐知子さん(サントアン販売員)

取材・文章 西 尚美



 田中さんが笑うと、つられて周りも笑ってしまう。転がるような笑い声で、空気が弾む。「笑い声がね、大きいんです。うちの母に似てるんですね。母もケラケラって」。生まれ育ったのは熊本。「熊本の天草に行く途中に半島があるんですね。その辺です。海もあり、山もあり」。がつく程の田舎、と笑う。地元は大好きで、スタッフの家族が熊本出身と聞けば嬉しくなってしまう。「三人兄弟の末っ子で、おじいちゃんおばあちゃんも一緒に暮らして可愛がられて育ったので、ニコニコする機会は多かったのかな」。


 田中佐知子さんがサントアンに勤めて、15年ほど。

 結婚を機に福岡で暮らし、旦那さんの転勤がきっかけで三田へ。「あぁ、ここを去るのねって出てきました。三田に来てみたら気さくな方、温かい方が多いですね。子どもたちも三田がいいって言うんで、いずれは九州に帰るかなって思ってたんですけど」、三田で暮らしていくことに。

ふたりのお子さんが小学生の頃、サントアンでギフト包装を担うパートスタッフ(ギフト隊)を募集していると聞き、働き始めた。「元々は販売じゃなくて、ギフト隊だったんです。器用ではないので、リボンとかも最初は難しくて苦労しました」。

 田中さんの15年間。九州を離れ、子育てをしながら、2020年まであった三田阪急店では店長も勤めてきた。ケラケラっと明るく笑う背景に、一生懸命駆け抜けた姿が見えてくる。


 「ギフト隊は2年もしたのかな」。その頃人手が足りなくなった阪急店から、販売の仕事をしないかと声がかかった。勤務時間を延長したい思いもあり「私でよかったらと即答でした」。頼りにしてもらい、役に立てるなら嬉しい、そんな気持ちもあった。不意にはじまったものの販売員は天職。「お客様から、ありがとうと言っていただいたり。ずっとお話しされるおばあちゃんもよくいらっしゃって、お話を聞かせていただいていたらすごく喜んで帰ってくださったり。直にお客様と触れ合えたり。仕事に行くというのが楽しかった」。


 ベテランスタッフが抜け阪急店で店長になると、いっぱいいっぱいになることも。ひとりで補わねばと連勤を続けた際、「ぽろっと主人にちょっと弱音を吐いちゃったら、主人がサントアンに電話しちゃって」。なんで電話しちゃうのと思った。けれど、当時単身赴任していた旦那さんの、田中さんを心配してとった行動。今この話題に触れると、温かい涙が込み上げる。当時の本店の店長が「ごめんね。」と話に来てくれ、人が足りない時は本店にも応援を頼むように。「あの頃は閉店時間まで働くと夜の8時まで。家に帰るのも8時半。買い物したら9時とか。子どもたちが中学とか高校のその辺を、主人がいないとね、子どもたちにも迷惑をきっと、って思うんですけど。いまふたりとも、元気に育ってくれてるなって」。

 仕事の道のりを振り返ると、家族への思いも浮かび上がる。

 そして辛かった時でも、仕事は好き。辞めたいとは思わなかった。

「本当に好きなんですよ。サントアンの人も、お菓子も、ケーキも。やっぱり子どももずっとここのケーキを食べてきているんで、サントアンのがいいって言いますしね。それもすごく、嬉しいですしね」。


 三年前からは本店勤務。今、販売を担う仲間と助け合える環境がある。「いろんな役割があって上手に回っているので、私が欠けている部分は他の人がカバーしてくれているから、今の自分があると思います。ひとりじゃないんだって思える。たまにひとりで抱えちゃう時もあるんですけど、気づいてくれて優しい言葉をかけてくれたり。私が悩んでいたら助けてくれますし、私が手助けしてるかわからないですけど、何かあったら助け合ったり相談したり」。

 見てくれている仲間がいる。そして田中さん自身も、ひとり抱え込むところがあるからこそ、ひとり困っている人がいないか、目が向かう優しさがある。


 そんな田中さんが、日々の仕事で大切にしていること。「私、どうしてもお客さん第一というか。お客様が入って来られたら、他の仕事をしなきゃいけない時も、そんな時は他の人に指示をしてって言われるんですけど、指示する前に自分が行ってしまう。こっちからお客様の接客をしに行っちゃうくらい、気になっちゃいますね」。


 阪急店の時から、今、本店にまで足を運んでくださるお客様も。これからの景色は。「お客様から好きになってもらうサントアンにしていきたいです。サントアンでしか買えない商品があると言ってくださるお客様もいらっしゃいますし、ケーキだけじゃなくギフトも、もっともっとお客様から使っていただけるサントアンにしていきたいです」。商品を好きでいてくださり、喜んでくださる。そんなお客様と、直に触れ合ってきたからこそ。


 卒業していくスタッフへの寄せ書きで、田中さんがよく書く言葉がある。「笑顔でいればなんでもやっていけるよ、みたいなことはよく書くかな」。それだけでもだめなんですけどね、と笑いながら。一生懸命に来たからこそ、笑顔が運ぶ力を知っている人。田中さんがいるとお花が咲くというのは、共に働く人からの言葉。今日もきっと真っ先に、お客様に声をかけに行く田中さんがいる。